新保奈穂美さんと都市型農園の話
日本における都市型農園の数少ない研究者の新保奈穂美さんが、この4月から淡路島の淡路景観園芸学校に着任されました。
このKobe Urban Farmingサイトでは、<これからの都市型農園>と題して、新保さんに毎月コラムをご執筆いただくことになりました。連載を始める前に、まずは自己紹介代わりに新保さんのお話を伺いました。
新保奈穂美
兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。
新保さん:
いまの研究テーマを見つけたのは、大学時代に訪れたウィーンのクラインガルテンという町中にある農園を視察して、ある種のカルチャーショックを受けたことがきっかけになりました。都心にありながら、恰幅のいいおじさん達が上半身ハダカで、のんびり水やりしていたり、デッキチェアに寝そべって本を読んでいたりして、町と農園のこんな楽しそうな暮らし方があるんだなと思って、卒論もクラインガルテンのことで書きました。
クラインガルテンとは、ドイツ語で「小さな庭」を意味する都市型の市民農園のこと。大学院時代には、新保さんは東京都日野市のコミュニティガーデンに参加するなどして、国内事例の調査も進めた。
新保さん:
日本の都市型農園も歴史をひもとけば、たとえば、大正期の大阪の関一市長が都市計画を進める中で、ドイツのクラインガルテンも参考にしながら市民農園や分区園を設置したという経緯があるのですが、クラインガルテンに比べれば規模も小さく、その後の市民農園としての発展も異なっていきました。そのあたりの違いがどうして生まれたのか、その研究はまだこれからですけど、人口減少が進み、土地に余裕が出てきたいまの日本で、あらためて海外の都市型農園のあり方を参照できるところはあると思います。
新保さんが講師を務める兵庫県立淡路景観園芸学校。
博士課程時にはウィーン工科大学に留学して、海外の都市型農園を数多くリサーチ。そして、助教となった筑波大では多文化共生ガーデンの研究と実践も行ってきた。
新保さん:
オーストリアやドイツで移民や難民の人を対象にした多文化共生ガーデンを見かけたことから、留学生がすごい勢いで増えていた筑波大でも、日本の学生と留学生とで小さな農園プロジェクトをやってみました。野菜を育てたり、料理をすることで日常的な接点と交流がいろいろと生まれましたが、運営という面ではまだ考える余地はありました。淡路島では、空き地をガーデン化する実践を授業の中で進めています。
いまの日本の都市型農園に足りないこと。新保さんはどのように感じているのだろう。
新保さん:
日本では農園=野菜を育てる場所という意識がまだまだ強いので、いろんな視点で農園を捉えて、もっと使い方の融通がきくようになっていけばと思います。法律の問題もありますけど、慣習的な意識がネックになっているところもありそうなので。あとは、ヨーロッパだと中間支援組織がしっかりしていて、都市ごとに農園がマッピングされた情報に簡単にアクセスできたり、農園の開設に必要なノウハウが提供されたりということが広く行われていますけど、日本ではそうした情報集約もなかなかなされていません。これは日本の研究者が少ないという理由もあります。そして、日本にも都市型農園の事例は多いのに、まだ海外ではほとんど知られてないんです。
神戸への移住を機に、新保さんは関西圏での都市型農園の事例も探り始めているところ。新しく始まる「これからの都市型農園」連載を通して、新保さんが考える都市型農園のあり方をご提案いただきます。お楽しみに!