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自転車でしか出会えない北区がある。 小春日和の里山ツーリング体験記。 by 竹村匡己(SAVVY編集長)

北区を訪ねた日は、3月初旬とは思えぬ小春日和。
小春というより、もはや初夏のような陽気で、スコーンと晴れ渡っていて気持ちが良い。風もなく、サイクリングには最高のコンディション。

「ほら、ここには馬がいるんですよ。向こうにはヤギもいます」と、のどかな里山を走りながらあれこれ説明してくれるガイドの吉田彰さん。
高級おしゃれサイクルウエアの「Rapha(ラファ)」でビシッと決めて、吉田さんが手掛けるオリジナルフレーム「KINFOLK」に、「THOMSON」「WHITE INDUSTRIES」などの高級おしゃれパーツで組み上げられた自転車が、ハブのラチェットのいい音を立てながら疾走していく。
吉田さん、自転車ガチ勢だ……。

自転車に興味がない人にとっては、暗号のような文章で始めてしまってすいません。
マニアックな話はここまでにするので、続きを読んでいただけると幸いです。

そもそも、なんで自転車ガチ勢の吉田さんと里山を走っているのか。
端的にいうと「神戸市北区を自転車で走ってエッセイを書いてもらえませんか?」と、事務局から依頼されたからです。

なんで依頼されたかというと、私・竹村が元サイクリング部で、神戸市とも仕事で関わることが多く、雑誌編集を長くやっていて文章もそれなりに書けそう、ということでしょうか。
とはいえ、そこまで神戸市北区のことを知らないのでアテンドをお願いしたのが、冒頭に出てきた吉田さん。神戸地域おこし隊として東京から移住してきて、今は茅葺きの古民家を改装した民泊「一十土(いっとうち)」を運営しながら、サイクルイベントをやったりテントサウナをやったりなどと活躍している人です。なにせ神戸市北区への愛が強い。そういう意味でも心強い。

集合したのはその「一十土」*1。六甲北有料道路の大沢ICからすぐ(見えてる)の、車だとアクセスしやすい場所。家から自転車を車にガンと乗せてやって参りました。大阪市内からだと、高速を使えば1時間もかからなく、ほんとにあっという間です。

神戸の良さは、街からフィールドがとにかく近いこと。ビルが建ち並ぶ三ノ宮からほんの少し行けば、ひろびろとした田園風景が広がる別世界。そして、六甲山も海も、どっちもいける良さもあります。

アウトドア業界のここ10年くらいのトレンドは、クロスオーバー。街からフィールドまでを切り分けずにグラデーションでつなぐ考えです。神戸は街とフィールドが近い神戸は、まさにイマドキのアウトドアに適したエリアといえると思います。

吉田さんと合流して、いざスタート。
シャーッと走り出す、のはいいんですが、いかんせん私のマシンはダートジャンプとかプレイバイクと言われる種類のもの。簡単にいうと、跳んだりはねたりする用の自転車で、ギアも1枚しかついてません(しかも、「25T-13T」の組み合わせで、ママチャリより軽いギア比)。
また専門的な話になっちゃいましたが、要は速く走れませんよ、というものです。

実は、取材前日に「こういう自転車で行きますー」と、吉田さんに連絡したところ、「マジっすか!? ガチ自転車乗りが来ると聞いていたんで、ガチで走るコースを想定していました!」
いえ、ガチは無理です。

ということで、わりとゆるめのコースを選んでいただきました。そして吉田さんもシングルギアの自転車で行ってくれることに。吉田さんもスローペースで進んでくれて、のんびりと冒頭のシーンに戻ります。

進むコースは車がほぼ通らない道なので、サイクリングするのが本当に快適。「移住してきてから、グーグルマップで道を調べて実走して、ルートを開拓してきました」と吉田さん。
確かに、自分ではなかなか見つけられないルートで面白い。
適度にアップダウンを繰り返しながら、田んぼの中を進んでいきます。途中に、馬や牛の牧場があったり、用水路を見たりしながら、飽きることがない。

気持ちよく快調に進んでいたのですが、すべてが順調だったわけでもなく……。
神戸地域おこし隊としても活動していた吉田さん、コース上に、面白い店を用意してくれていました。
豪奢な元医院を改築したカフェ&フリースペースの[ヌフ松森医院]。
県外からも人気を誇るベーグル屋さん[はなとね]。
地元食材をふんだんに使った料理屋さん[ごはんやさん きもり]。
淡河宿本陣跡の建物で釜飯をいただける[本陣 なな福]*2。
どこも面白そう! おいしそう!
…なんですが、すべてまさかの定休日。

心なしかペダルを漕ぐスピードが落ちた気がする吉田さん。
とはいえ、神は見捨てませんでした。

淡河(おうご)といえばの名物・豊助饅頭の[満月堂]*3は、バッチリ営業してました。
サイクルスタンドも常備されており、昔懐かしのおまんじゅうでエネルギーチャージもバッチリです。

ここからは往路。
ふたたび里山の中を、アップダウンを繰り返しながら突き進んでいきます。

途中に、茅葺き屋根を葺き替えたばかりの南僧尾観音堂に立ち寄ったり、ゴルフ場の中を通ったりと、都会では味わえない見どころが満載です。
なにより空が広い!

「ここから見る夕日もきれいなんですよ」と吉田さん。
季節や時間が違えば、風景もがらりと変わります。車だと、見過ごしてしまいそうな景色や、風と空気を自転車なら感じることができるので、いい乗り物だなと改めて。

そんなこんなで2時間ほどで、里山ツーリングが終了。ほどよい距離感と時間でした。
自転車ガチ勢じゃない人向けに、吉田さんは電動アシスト自転車のレンタルや、子どもを乗せられる自転車用のトレーラーの導入も考えているとか。
これから田んぼや山が緑になれば、もっと美しい景色が待っているはず。

夏になると昼は暑いので、ナイトライドなんか楽しそうだなぁと夢想してみたり。
近いけど旅気分はたっぷり味わえました。

 

竹村匡己 1974年、京都府生まれ。保険会社のSEを経て、京阪神エルマガジン社入社。2014年12月にミーツ5代目編集長に就任。2019年よりサヴィ編集長に。サヴィでは神戸に関わる特集も多数。ラジオの出演やセミナーへの登壇ほか、雑誌のみならず幅広いジャンルで活躍中。趣味を生かして自転車雑誌やメディアへの寄稿も。

*1 一十土 https://kobeurbanfarming.jp/news/539/
*2 本陣 なな福 https://kobeurbanfarming.jp/news/1434/
*3 満月堂 豊助饅頭 https://www.instagram.com/mangetsudo/?hl=ja