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宿場町に残る文化財級の建物で 気軽に食べたり飲んだり

有馬温泉へと通じる湯乃山街道。その宿場町として栄えた淡河(おうご)では、今もその頃の名残りが見られる。

なんといっても、淡河の中心に位置する本陣跡がそのままの姿で、広く開かれた建物となっているのはうれしいかぎり。それが「本陣 なな福」。文化財級の価値を持つ建物ながら、堅苦しさの一切ない運営がとてもいい!

中庭の周りに主屋と2つの蔵が。蔵のなまこ壁がとにかく絵になる感じ。

中庭から主屋を見るとこの雰囲気。縁側の客席もオツなもの。

16畳の大座敷が3つもある。湯乃山街道は西国からの湯治客だけでなく、参勤交代の大名たちも利用したという歴史があるからこその、この大きさ。

3つの座敷のうち、奥の平屋にある西座敷は江戸中期に建てられたままで現存。手前は明治45年(1912年)築と伝わる。ちなみに西座敷前の廊下はうぐいす張り、きいきいと鳴ります。

この江戸中期の建物も、特に何の制限もなく客席として利用できるのがすごいところ。意図的にあまり修繕していないため、床の間の剥がれた壁紙の向こうに、手書きの反故紙がのぞいていたり。

座敷から見える庭は、近くの山から引いた水の流れる泉水もあって、拝観料とってもおかしくないレベル。

淡河に生まれ育ち、かつてこの建物が約60年間、空き家として放置されていた時代も知る武野辰雄さん。今はこの本陣を管理、運営している。

「僕らが子どもの頃は、勝手に入り込んでお化け屋敷ごっこをしていたような建物でした。相当、荒れてましたからね(笑)。いってみれば、地元の子どもたちの秘密基地だったんです。それを地元の活動拠点とするべく、保存会を設立して、地域のみんなで掃除から整備を進めてきました。今の営業の形になったのは2019年から。文化財登録といった話ももちろん出ましたけど、そうなるとどうしても制限が多くなってしまう。大人の遊び場、みんなの遊び場として維持するために、できるところまで自力でがんばっていこうと保存会のメンバーとは話し合っています。子どもが障子にぷすっと指で穴を開けるとか、そういうのも笑ってしょうがないかなって言える方がいい(笑)」。

この西座敷は、ほぼそのままの状態で映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』のロケ地に使われた。武野さんがとっている格好は、劇中で桂小五郎役の高橋一生が剣心役の佐藤健を迎えるときのポーズ。映画ファンの聖地として、この角度での撮影が定番となっているそう。

紹介が後になってしまったが、「本陣 なな福」はこの建物を活用して営業している地元野菜を使った食事とカフェ使いのできる飲食店。

縁側席でもいただける釜飯定食。山菜、和栗、とうもろこしなど、季節の野菜をあわせた釜飯もあり。

看板メニューは蒸し鯖寿司。淡河名物だっけ…と思いきや。

なな福の台所をまかされている辻野晶絵さんが家で出していたという自慢の品。生まれも育ちも淡河の辻野さんが、彼女の父が淡河で育てたおいしいお米を使ってつくっている。これはもう現代の淡河名物と言っていい。

中庭に植わる柿の木で干し柿をつくったりも。春、夏、秋、冬、お正月…と地元の旬をいかにとりいれるか、辻野さんの料理を楽しみにしている人も多い。

中庭の奥には茶室に井戸、えびす神社まで。西宮えびす神社の分社として、毎年の十日えびすは地元の人たちが福を求めて集まる。

店の営業が休みとなる月・火曜日は、子ども英語教室など地域の寺子屋としても活用されている。

「夜の営業はまだ難しいところですが、イベント的にビアガーデンとして限定オープンしたときには大盛況でした。来年に向けて、庭でホタルを自生させて鑑賞会みたいなことができないだろうかと、少しずつ準備を進めています」と武野さん。

駐車場とは反対側、旧街道に面した入り口が本来の玄関なのでお見逃しなく。

本陣 なな福

●北区淡河町淡河792-1
※営業時間は11~16時(ランチのラストオーダー14時、カフェ15時) 月火曜休
https://www.ogo-honjin.com/
https://www.instagram.com/honjin_nanahuku/

<本陣 なな福までの道のり>

文:竹内厚

写真:岩本順平