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つながるレストラン-里山編- レポート

KOBE FOOD CULTURE FEST.のプログラムとして、つながるレストラン里山編が行われました。今回の食事会場は、神戸市北区の農村、淡河町にある南僧尾観音堂です。地元の方や農家さんに触れ、茅葺き建築の前にできた1日限定の屋外レストランで地産地消の料理を楽しみました。
その様子をフォトレポートしていきます。

晩秋の農村風景、営みに触れる

ゲストのみなさまは、神戸の誇る有馬温泉街に佇む旅館、ねぎや陵楓閣にチェックイン後、一路、農村地域の淡河町へ。
夕暮れの陽の差し込む畑で出迎えてくれたのは、農家の平井さん。ここ淡河町で長年に渡り農業を営まれる大ベテラン。この日の畑にはキャベツやじゃがいもなどが力強く育っていました。
袋がずっしりと重くなるほどのじゃがいもの収穫体験のあと、「これ、採って食べてみて!」と紹介してくれたのは、サラダとうがらし。そのままでも辛くないと言われ、ゲストもおそるおそるかじってみて、「辛くない!みずみずしい!」という驚きの声をあげていました。

ゲストからは「楽しい!でも毎日だと大変だよねぇ。」という感想も。

平井さんの畑をあとにして、会場へ向かいます。しばしの里山散策です。

道中、茅葺き屋根の材料となる茅(※ススキや稲わら、小麦わらの総称)を保管する倉庫にも立ち寄りました。神戸には茅葺き屋根が全国でも有数の多さで残っており、この地域の大切な伝統文化。近年、維持の費用や担い手の課題から、数が徐々に減ってきています。 

今回の会場である観音堂の葺き替えは、50余年ぶり。その際は、貯蔵庫いっぱいに茅が保管されていたのだそう。

茅葺きと竹林に囲まれた、一夜だけの会場へ 

竹林に囲まれた堂々たるお堂に到着しました。ここからは、長年に渡りこの観音堂を地元で管理してきた、観音堂護る会の藤井さんの登場です。
南僧尾観音堂は、840年に創建された親善寺の元々の本堂。戦国時代の戦火で一部が焼けてしまったものの、その後豊臣秀吉の命によって修復がなされ、今も地域で守り続けられている県指定重要有形文化財です。

50年以上前の屋根の材料なども残っているとのこと。

陽もすっかり落ち、あたたかな照明が食卓を照らす中、食事が始まります。
本日のお料理は、ここ淡河町の素材を使うことにこだわり抜いたこの日だけの特別コース。食卓を彩るのも、淡河の野山の花や、淡河の竹で作られたカトラリーたちです。

始めに、淡河町ともゆかりの深い料理研究家・安藤さんからコースのご説明がありました。
淡河の野菜はもちろん、淡河の川エビ(!)や幼竹からつくった「カムカムメンマ」、垂水の漁師さんから届けられた鰆や神戸ビーフなど、里山と里海の恵みを惜しみなく詰め込んだメニューに期待も高まります。まずは神戸ワインのスパークリングで乾杯。

本日のお料理は、安藤さんと、淡河町にあるカフェ「本陣なな福」の辻野さんの手でつくられました。

 

7品が彩りよく盛られた付き出しには、北区「弓削牧場」のカマンベールチーズも。

合わせて供されたのは、剣菱の辛口日本酒「黒松」。
淡河町は酒米である山田錦の一大産地でもあります。ご紹介いただいたのは、淡河宿本陣跡を中心に様々な活動をされている武野さん。竹林整備と竹活用のための「バンブープロジェクト」についてもお話いただきました。有機野菜の栽培に必要な土質の改善にも、竹チップや竹炭などが取り入れられています。

武野さんの柔らかな人柄とも相まって、熱燗のあたたかさが染みわたります。

続いて天ぷらのお皿が提供されました。
かき揚げには、13年前に淡河で就農した森本さんのセロリが使われています。
森本さんは山の風景が好きで、”神戸とは思えない”淡河町の里山風景に惚れ込み、移住をされました。少量多品種で様々な野菜や果物を作られています。冬の冷え込みの厳しい淡河町の寒暖差も、野菜や苺の甘味を増し、収穫物を美味しくする要素なんですと教えてくれました。

地域に在るもみ殻やたい肥など、「エコで”お金をかけない”農業をしている」と笑いながら話してくれた森本さん。

続いて、淡河町在住の農家・鶴巻さんより料理の器のお話がありました。本日の料理に使われている多くの器は、淡河の陶芸作家「つくも窯」の十場天伸さん・あすかさん夫婦の手により生み出されたもの。

里芋と大根の炊き合わせ

 

注いで。

 

なんとこちらの神戸ビーフも南僧尾地区で飼育されているというから驚き。付け合わせは先ほど訪れた平井さんのじゃがいもです。

お料理とともに神戸ワインや日本酒も心地よく進み、一緒に食卓を囲んだ藤井さんやゲストの皆さま会話も弾みます。農業の苦労や薪などを使った里山に残る昔ながらの暮らしについてのお話も聞かれました。 

お料理を提供してくれた辻野さんのお父さまが育てた新米。

最後のデザートは、明治15年創業の淡河の老舗和菓子店「満月堂」の栗きんとん。本日のお花も活けてくれた満月堂の吉村さんからご紹介いただきました。栗とお砂糖だけを使って丹念に仕上げる秋のごちそうである栗きんとんですが、今夏の暑さで採れる量の少なかった淡河の栗を本日のために取っておいて、特別に用意してくださいました。

吉村さんの活けられた稲が、観音堂に華を添えます。

 

最後には本陣なな福の辻野さんもご挨拶いただきました。

歴史ある建物の目の前で開催された一夜限りのレストラン。一見、庶民的な暮らしからは縁遠い取組みに感じられるかもしれません。
しかしその空間は、地域に暮らす人たちの手で生み出されているもの、守られているもの、そしてそれらを昇華して表現するお料理など、関わる人々の思いに溢れていました。
藤井さんの言葉にもありましたが、歴史ある建物がただ神聖に扱われるのではなく、活用されていくこと。そこにこのかけがえのない暮らしを続けていくヒントがあるのかもしれません。
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。