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瀬戸内の食文化をめぐるレポート vol.1 徳島 前編(つくる)

かつては、西日本の交易の中心だった瀬戸内。そんな瀬戸内エリアには、新たな食にまつわる活動や動きが生まれつつある。今回の取材では、瀬戸内の各県を巡り、「つくる人」「ひろげる人」という視点から、各地のプレイヤーの取組みを発信し、食文化を発展させていくヒントやきっかけを見つけ、ネットワークを構築していく。

 

最初に訪れたのは、徳島県。私と同じく、兵庫県神戸市のカメラマンである岩本さんと車を走らせ、淡路島を越え四国に入る。現地に着くと、今回の取材の調整をしていただいている建築士の高橋さんと合流し、美馬市へ向かうことにした。

 

地元の野菜や調味料が普通に並んでいる感動

車は、急峻な里山へ入っていく。目に入ってくる畑は、棚田というよりも、傾斜のある場所がそのまま畑として使われている様子で、少し驚く。車はさらに山の中に入っていき、行き着いた先に現れた家は、まさにポツンと一軒家。

「中を見せてもらった時に、きれいですぐ住めそうな家だったから、もうとりあえず、後々少しずつ直しながら住めばいいかなと。」

そんなフットワークの軽さや柔らかな雰囲気をお持ちの足立匡嗣さんと由美子さんに出迎えていただいた。この場所で『ことりね』という屋号で農業を営んでいる。以前は京都に住んでいて、特に由美子さんは夜遊びやお酒も大好きだったそう。そんな中、お子さんが生まれたことがきっかけで、食の勉強に傾倒。しかし徐々に環境活動のような偏ったものになっていき、それだったら自分たちで食べるものは作れるようになりたいなという思いから、2015年に移住を決意。

「徳島のスーパーって、徳島県産の野菜、調味料が普通に並んでいて、そういうところに感動したんですよね。」

シンプルなことが、現代において実は難しく、大きな価値であるのかもしれない。一方の匡嗣さんはどんな気持ちだったのだろうか。

「最初、私は農業に全く興味はなかったですよ。移住して、農作業のアルバイトをさせてもらったりしているうちに、自分たちで計画立ててやっていきたいよねという気持ちが湧いてきました。地元の方に畑を紹介してもらう中でさらに覚悟が決まり(笑)、研修を受けたり、給付金をいただいたりしながら就農しました。」

 

手間暇かけた作物に、もう一工夫の加工で勝負

このあたりの地区は山間部のため、畑自体が斜面になっていたり、大きい石があったりすることから、栽培に適している作物が限られるそう。足立さんは、農薬や化学肥料を使わずに、お米を7反(約70a)、その他加工品にするために、さつまいも、唐辛子、にんにくなどを作っている。

「冬の季節は干し芋の加工でしょうか。鳴門金時という品種は元々ホクホク系ですが、このあたりの土地で作るとしっとりするので、干し芋に向くさつまいもになるんです。昔からこの地域で広く作られています。」

実は私も兼業農家として同じく干し芋も製造していて、金時系のイモは干し芋が難しいという認識があったが、取材をしながらいただいた干し芋はしっとりしていて、作る土地によって作物自体の特徴が変わることに驚く。由美子さんは、主にゆず胡椒をはじめとした加工の担当だ。
「どう差別化するかって考えたときに、ロゴをどうするかとか、パッケージをどうするかといったことは楽しみながら考えています。私たちのゆず胡椒は、3層なんですよ。」

自然の中で作られたものだけで彩られる鮮やかな色に、一瞬で目を引かれる。そして見た目だけでなく、混ぜて食べることによってそれぞれの香りが立つのだそう。これらの商品は、SNSを通じて直接販売したり、『とくしまマルシェ』というマーケットに出店したりしながら、少しずつ販路を広げている。広大な面積を持つ産地とはまた別の工夫や売り方で、日々試行錯誤している。

 

居心地のよさを、無理なく追求する

今後の展望を聞いてみる。1時間ほどの時間ではあったが、私が今回お二人から感じたことは、空気感や口調がとても穏やかだったことだ。

「私が一番望んでるのは、田んぼや畑に行って『居心地がいい』という状態を作ることです。なるべく農薬や除草剤を使わず、そして作った作物がしっかりとした価格で取引されていけば、畑は居心地がいい場所になるはずです。」

生活していくためには、農というその行為だけに居心地のよさを求めるのは難しく、そこには金銭的な安心や、人との関わりも含めてはじめて居心地のよさに近づいていけるのかもしれない。匡嗣さんの次世代に繋いでいきたいという思いは、日々の行動やあり方を変えていく。最後に、今回の取材で共通質問として設定した、『食文化』という言葉をどう捉えますか?

「どんな農法や栽培方法であれ、食べ物を作ってる人たちってすごく一生懸命されていて。みんな早起きをして、とんでもない量の仕事をしているんですよね。それを見て、こだわりの中に自分で勝手に枠を作っていたなって気付きました。それよりも大切なことは『居心地がいい』ということでしょうか。何かに固執するより、自分の関心のあるものに没頭していると、すごく体調が良くなって元気になってきたんです。食文化も、肩肘張らず、居心地のよさの中で無理なく選択できるものがたくさんあるとよいですね。」

お二人から同時に発せられた居心地がいいという言葉。これからも、この居心地のよさの輪が、ことりねを通じて広がっていくような気がした。

 

●おまけコラム「徳島の郷土料理」

今回の取材は、『各県の郷土料理を食べる』というテーマもいただいている。しかし、取材のスケジュールを進めていくと、昼下がりのなんともいえない時間しか食べる時間が取れないことが判明した。その結果、私たちはこれを郷土料理とした。

徳島ラーメンである。私はラーメンをこの上なく愛している。郷土料理候補のお店が軒並み閉まっていることをいいことに、徳島ラーメンしかないという結論を導き出した。徳島ラーメンの特徴は、なんといっても甘辛く煮たバラ肉だろう。さらに私は、生卵を載せるという徳島県人の文化を讃えたい。中細麺に、バラ肉と卵を存分に絡めてすする。うまい。うますぎる。まだ雪残る山から下ってきた身体に染み渡る。郷土料理は、身体にやさしいのだ。

 

後編に続く。

 

 

記事では書ききれなかったことなど、取材時の様子を動画で公開しています。

より詳しくご覧になりたい方はこちらから。

文:鶴巻耕介

写真:岩本順平