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これからの都市型農園06 文化をつなげる農と食

これからの都市型農園
新保奈穂美

06 文化をつなげる農と食

ドイツやオーストリアには多文化共生ガーデン(Interkultureller Gartenの意訳)と呼ばれるコミュニティガーデンがある。一見、普通のコミュニティガーデンに見えるが、特に移民や難民の社会的包摂に目的を置いたものである。冒頭の写真はベルリン市の多文化共生ガーデンのひとつ、ヒンメルベート(Himmelbeet)の入り口で、様々な言語で歓迎の意が示されている。

ルーツを辿ると、ドイツのゲッティンゲン市で、ボスニアからの戦争難民女性がガーデンを恋しがったことから、1996年に多文化共生ガーデンが誕生したという。その支援を担ったanstiftungという現在ではコミュニティガーデンやDIY活動の支援をする組織の担当スタッフも難民だったそうだ。

ハノーファー市にも多文化共生ガーデンを複数運営する組織(とはいっても代表1名のみの組織)が存在する。ガーデン利用者の出身国はペルーやシリア、トルコ、レバノン、イラク、フランス、ロシア…と非常に多様である。

移民率の高い地区の集合住宅で、ガレージ上につくられた多文化共生ガーデン

 

「食」は、誰にでも必要で、また文化を反映しやすいものである。さらに、高度な言語スキルがなくとも、野菜や果物を一緒に栽培したり、おいしいものや珍しいものをみんなで食べ合ったりすることは、日常的な交流のきっかけになりやすい。特に自分の国の食卓に欠かせない食べ物を育てると、母国を思い出しほっとするだろうし、その食べ物は料理の仕方も含めて他の文化圏の人たちとの話のタネにもなる。もちろん、今いる土地の気候風土や文化も学ぶことができるだろう。

ガーデン内に窯があれば、とれたての野菜を使った料理をともに楽しめる

 

神戸でも長田区の密集市街地内空き地を活用した「多文化共生ガーデン」が2020年に誕生している。周辺にベトナム系の住民が多いことから、パクチーなどベトナム料理に欠かせない野菜が栽培されている。看板にはもちろんベトナム語もみられる。

まずは互いのことを知らないと、疑心暗鬼からさまざまな不和がうまれ、多文化共生は実現しない。日本でも多文化共生ガーデンの動きが広がり、草の根的な相互理解の場が増えていくことを期待する。


新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。