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「FARM to FORK 2021」レポート by太田明日香

「FARM to FORK」7回目の開催となった2021年。これまでの東遊園地から須磨海岸に会場を移して、10月30日と31日の2日間にわたって開催されました。

そこで、今年初めて「FARM to FORK」を訪れたというライターの太田明日香さんにその見聞記をお願いしました。太田さんが訪ねたのは10月30日です。

 

作る楽しみ

文・写真/太田明日香

朝10時、会場のJR須磨駅に着くと駅舎のすぐ下は浜辺で、人影がちらほら見える。その向こうに海が光って眩しいくらい。昨日の天気予報では寒くなると聞いていたけど、風はなくてTシャツ一枚でもいいくらい。

ファーマーズマーケットの鉄則は、早めに来ることと行列の店を探すこと。なぜなら、人気の店はおいしいものからなくなってしまうから。さっそくパン屋さんとスコーン屋さんの前に人だかりを発見。パン屋さん*1の方に並んでみる。自宅で焼いてファーマーズマーケットで売っているそうで、勧められたサツマイモメープルチャバタ、チョコとナッツのパン、フォカッチャを買ってみる。お隣は蒲鉾屋さん*2。生姜やきくらげといった定番から、チーズやえび入りなど変わり種まで、おいしそうな天ぷらはどれも鱧のすり身入り。神戸のブリュワリー*3のビールが売ってたから後で一緒に食べたいなあ。

買い物もそこそこに、トークを聞きに行く。今日のこのイベント・FARM to FORKは今年で7回目。神戸市内の農家さんや漁師さんが集まるファーマーズマーケットのほか、2日間にわたって食や地産地消を考えるトークや、ライブが開かれる。ファーマーズマーケットの方は毎週、神戸市内で行われている。

オープニングトークは、アーバンファーミングを研究している新保先生、北欧家具のお店の店主さんやオーガニック農園の農家さん、スローフード協会の方などが集まって、食について考えるトーク*4。新保さんによると、欧米では都会の空き地や屋上を農園にするアーバンファーミングがさかんだそうだ。そういった農園は都市の緑化や個人が楽しむためだけでなく、コミュニティ作りや移民や所得の低い人が社会参加するきっかけにもなっているという。神戸市でも長田や灘の市場でそんな場所*5があると聞いてがぜん興味がわいた。ほかにもカフェを通じて農と都会をつなぐ取り組みや有機農業を広める活動をしているというお話など、都会にいてもさまざまな形で農業と関わることができる取り組みを聞いて、なんだか自分もやってみたくなった。

せっかく農業の話を聞いたんだからと、野菜も見に行くことに。トークイベントで「ファーマーズマーケットはそのときの旬に出会える」と言っていたけど、どのお店にもナス、きゅうり、とうもろこし、サツマイモ、お米が多い。今年は異常気象だったけど、ちゃんと季節の移り変わりが感じられてうれしくなる。

目に止まったのはとうもろこしのもぎとり*6。畑に生えている姿のまま茎ごと売っていて、好きな実を選んでもぎとれる楽しい趣向。こうして、畑に植わった姿を見られるのはファーマーズマーケットならでは。

別の農家さん*7では落花生の実と一緒に根付きのものも置いていた。落花生の根にくっついた小さなつぶつぶが気になり、しげしげ眺めていると「それは根粒菌ですよ。畑ではこんなふうに生えているんですよ」と教えてくれた。根粒菌って理科の授業で習ったっけ。豆の根っこの菌が成長に役立つというやつ。お話を聞いているうちに食べたくなって一袋買ってみる。茹で落花生はお店で食べたことはあるけど、自分でゆがいて食べたことはない。初めての野菜でも、ファーマーズマーケットなら農家さんにその場で食べ方を聞けるから、新しい食材にもチャレンジしやすい。

スーパーだとつい消費者目線になって、値段や大きさや色や形ばかり見てしまって、その野菜がどうやってどんな場所でできたかとか、どんな人が作ってるかなんて考えない。だから、こうして直接生産者さんのお話を聞いて選べるのも新鮮だった。

落花生はシンプルに茹でて食べるとして、とうもろこしはどうしよう。茹でようか、それとも焼きとうもろこしにしようか。うちに帰るまでの間、頭の中はどうやって食べようかでいっぱいだった。

コロナ以降、自炊が増えてごはん作るのが苦痛になった時期があった。毎回なるべく同じような野菜ばかりを買って、できるだけ頭を使わないで料理するようにしたり、手間と時間を省くためカット野菜や冷凍野菜や缶詰を買ったりしていた。そのおかげで料理を作る時間は大幅に短縮され、手間も減って効率的になったのだけど、そうしているとだんだん料理がつまらないと感じるようになった。料理なんて毎日のことだから、おもしろさなんて必要ないのかもしれないけど、やる気がないのに毎日作らないといけないのが辛かった。あんなに毎日の料理にうんざりしていたのに、今はどんな味がするのか早く料理したくてうずうずしている。

去年から六甲アイランドの屋上農園*8で畑を借り始め、灘の市場の畑にも関わっているというご夫婦に話を聞くことができた。「わたしはノータッチだけど、夫と子どもは生き生きしだして楽しいみたい」「物々交換したり、交流が持てて楽しいです。コロナ禍で閉塞感があったけど、土に触れることで充実感がありました」。
たしかにこんなふうに自分で野菜を育てるのは楽しい。わたしも去年から節約と気分転換のため家庭菜園を始めた。もちろん収穫量はたいしたことがないし、土や肥料代もかかるから節約にはなってないと思うけど。

でも、ものを作るって本来は楽しいことだ。料理にだってそんな作る楽しさがあったはず。忙しさにかまけて効率ばかり考えて、そのことを忘れかけていた。

結局、とうもろこしは天ぷらに、きゅうりはシンプルに切って塩をふって、落花生は塩茹でにして食べた。どれもびっくりするくらい甘くて、また来週も行きたくなった。

 

*1 受注販売専門のパン屋さん、nenne pan(北区)
*2 丸八蒲鉾(中央区)のこと
*3 IN THE DOOR BREWING(中央区)、この夏、六甲アイランドに新店をオープン
*4 登壇したのは、淡路景観園芸学校の新保奈穂美さん、北欧家具の店・北の椅子と(兵庫区)の服部真貴さん、ナチュラリズムファーム(西区)の大皿純子さん、日本スローフード協会 近畿プロジェクトマネージャーの濱部玲美さん、神戸市経済観光局 農水産課の佐野暢子さん
*5 長田区は多文化共生ガーデン、灘は水道筋商店街のいちばたけのこと
*6 Moto Vegetable Farm(西区)が販売
*7 元農園 チアファーム(西区)のこと
*8 神戸ベイシェラトンホテル&タワーズの屋上にあるシェラトンファーム

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太田明日香

著書に『愛と家事』(創元社、2018)。マイクロパブリッシングレーベル・夜学舎主催。DIYスピリットを忘れず消費社会をサバイブするためのヒントを提案する自主制作雑誌『B面の歌を聞け』発行人。