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「農業 × 漁業 × 林業」クロストーク 

「農業×漁業×林業」を掲げたクロストークが11月、オンラインで開催されました。それぞれが集うイベントなどは少なくありませんが、業種を越えて話す機会となれば意外と見当たりません。
神戸を代表する農林水産業のプレイヤー6人に、3人のファシリテーターを迎えて、150分の時間いっぱいまで、さまざまな話題やアイデアが交わされました。

登壇者:
大皿一寿(ナチュラリズム)
東馬場怜司(東馬場農園)
若林良(すまうら水産)
尻池宏典(しらす漁師)
曽和具之(神戸芸術工科大学准教授)
山崎正夫(SHARE WOODS)

服部滋樹(graf)
鶴巻耕介(つるまき農園)
岩本順平(DOR)
*各プロフィールはこちらのリンク先にまとまっていますhttps://www.gastropoliskobe.org/wp-content/uploads/2021/11/profiles.pdf


 

最初の話題は、流通について。

農業資材メーカーに就職して、トマトの研究をしていた東馬場さんは、2012年に仕事を辞めてオランダ式のハウスでトマト栽培を行なっているのですが、ハウスが完成するよりも前に取引先を開拓しようとスーパーを巡ったそうです。
「まず自分が野菜を買うならどういう行動するかなと考えて、いくつものスーパーを見て回りました。素人だからできたことだったと思うけど、ここだというスーパーを決めて、サービスカウンターに飛び込んで話をしたら、バイヤーにつないでくれて(笑)」。
ハウスを完成させる前から卸先が決まり、最初はそのスーパー5店舗から取引から始まって、今では全店舗展開されているとのこと。この飛び込み営業スタイルには、一同驚きの声を隠せず、うなるばかり。

西欧で広がったCSAというやり方(作付前にお金を集めて、対価として旬の野菜をセットで届ける仕組み)を5年前から始めたという大皿さん。届く野菜の内容は生産者が決め、各戸配達ではなく、いくつかのピックアップステーションに届けたものを消費者が取りにいくというやり方をとっています。
「消費者にとっては面倒だし、ハードルも高いけど、少しずつ認知度も上がって、ニーズが高まってきた。顔の見える関係を消費者も求めてる時代になってきたという実感はあります」。

同じようなやり方、漁業ではとれないのでしょうか。「身近な港で獲れた魚が食べたくても、それを扱ってる魚屋さんが意外となくて」と岩本さん。

尻池さんによれば、「ひとりで漁をやってる漁師も多いので、漁を終えてから発送作業というのは負担だし、そもそも獲れる魚は日によって違う。けど、個別配送じゃなくて、消費者にピックアップしてもらうという大皿さんのやり方だったら、漁師もやれるかも」と。
「海外のCSAでは野菜だけじゃなくて、卵や魚もあります。農家とピックアップステーションを共有している例もあるので、一緒にやりましょか(笑)」と大皿さん。
海と畑の生産者が手をつないで動ければ、生活者にとってもありがたい話。早速、業界を越えたつながりの可能性を垣間見ることができました。

林業の流通は、またスケールが大きく違います。
山の木を切ってから乾かして、寝かせて、製材して。これだけでも4~5年。植林から始めると、収益が出るまでおよそ50年だとか。そして、神戸で持ち込みの製材をやってくれる業者はもう1軒だけを残すのみだそう。

芸工大の学生たちとものづくをしている曽和さんは、大学の周りの山にも木や竹はたくさんあるのに、それを切って使うことはできないし、一方で、山を持っているという人から、木の扱いに困っているという相談を受けたこともあると話します。「なくなってしまった流通網を戻すのって、こんなにも大変なんだなって感じます。薪材として流通していた里山が使われなくなってほぼ半世紀。樹齢が4~50年の木は限界にきていて、もう枯れていくしかない…」。

世界的にはウッドショックと呼ばれるほど、木材需要に供給が追いつかず、価格の高騰が続いています。
六甲山で山の手入れによる木を有効活用するための団体も立ち上げた山崎さんによると、業界的には今の状況に対していけいけなムードもあるのだそう。「林業は目先の利益で失敗してきた歴史もあって…大きなものに取り込まれない仕組みをどうつくっていけるかどうか」。

この話、今年はシラスが大豊漁で値崩れ、イカナゴは近年まったく獲れなくなったという、神戸の漁師たちにも通じるところがあるようで。
「温暖化などの問題もあって、漁獲量は減る一方。魚がいればいる分だけ獲ろうとしてきた漁師の問題もあるし、獲れる魚は減っていても、流通先で販売される価格は変わらない。結果、泣いてるのは漁師」と若林さん。
「環境のことを考えていかなければ、次の世代に海の資源をつなげないという危機感は、僕らの世代の漁師みんなの共通認識です」と尻池さん。

というところで、後半戦へ。

環境の話を続けていけば、海と山のつながり、神戸特有の事情もさらに見えてきました。

海と山の近さは神戸の特徴としてよく言われることですが、それゆえに海の栄養が少なくなりやすいという問題は昔からあったと解説してくれたのは曽和さん。西は明石川水系、東は武庫川水系、その間に神戸市は位置しています*。
「海と山が近くて、かつ、その間の土地の多くは都市化しているので、海を守るためには山をどう守るかを考えなければいけない。しかも、明石川水系、武庫川水系に栄養を送っていた神戸市北区や西区の棚田群が放棄され始めたことで、山と海の循環がどんどん失われている。かつては、棚田の保水機能、栄養機能を保つために、海の民が肥やしとしてのイワシを山にあげて、といったことも行われてきたけど…」。

*参照:神戸市教育委員会による「神戸市の水辺地図」
http://www2.kobe-c.ed.jp/shizen/wetland

まさしく農業・林業・水産業、共通の課題。あまりの問題の大きさになかなか言葉が出てきません。須磨の海で海苔養殖を手がける若林さんから、近年の播磨灘の環境変化も伝えられ、地球規模の気候変動と地域の課題とが重なって、もはや個人でどうこうできるレベルを超えているよう。

話の接ぎ穂をくれたのは、六甲山系に関わってきた山崎さん。「六甲山にも関わることができるんだって僕らもやり始めてやっと知ったこと。国立公園でもあるし、関われる山だと思ってなかったから。2012年から森林法の改正もあって、市が戦略を立てて森林の整備を進めています*。僕としては、人が山に入って山が保全されるなら、林業といわずに、山の農業という考え方でもいいと思う。木のことだけ考えると間口が狭いから」。

*参照:神戸市の「六甲山森林整備戦略」
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/1078/senryaku.pdf

身近な耕作放棄地で稲作をやってみようと、集落のグループで4反を借りたというのは大皿さん。ところが、昨年からため池の堤防が老朽化しているため、水を貯められないことになって収穫量が半分ほどになってしまったそう。「やりたいという気持ちのある人は集まってるのに、そういう難しい状況って各地にあるんだと思う。いろんな産業が抱える地域の問題が一気に出てきているタイミングじゃないかな」。

ここで話を切り替えて、後半戦のテーマ、経営について。

漁場から船、工場の施設まで一貫して抱えなければいけないという海苔養殖業の若林さんは、「僕らはつぶれかかっていたんです」という大変な話から。3軒にまで減っていた須磨の海苔業者が一緒になって、2014年、有限責任事業組合=LLPとして設立したのが若林さんのすまうら水産。おかげで月給制をとって若い従業員も雇えるようになるなど、そのメリットとデメリットを詳しく披露されました。
「LLPって企業間でやることが多いけど、僕らは同じ海苔業者で集まって、お互いが持ってる技術のいいとこどりをしながら年々、伸びている。今、この海苔の季節に、僕がこうやって話してる時間も仲間は沖で作業していて、これもLLPで作業を分担してるからできること」。

農業でいえば、営農組合という仕組みがあったり、近年は企業による参入事例も増えていますが、個人事業主のほうがまだ効率がよく、収益も高いのが現状だといいます。
「そこにどんなメリットがあるのかが明確ならモチベーションが生まれるでしょうけど…、僕が法人化した理由は、個人事業でやるよりもやっぱり若い人を雇いやすくなるから。ちゃんと週休2日という形をとって」と東馬場さん。

ここで、山でビジネスをやってみたいという若手が林業で起業しようとしたときに、その道筋はありますかと鶴巻さんからの質問が。
林業の場合、山で木を切るだけではお金になりづらく、切った木を活用したものづくりまで見据えて、その両輪を準備できるのであれば可能性がないわけじゃないと山崎さん。
「ただ、地域に山のインフラというか、ハブみたいなものがあって、そこと紐付いてなければ山の木を切るのも難しいと思う。僕が最近思っているのは、製材所がそのハブになるだろうと。小さいながらも製材所があれば、地域の山はまわっていく。だから、僕も簡易的な製材機を買おうと考えている」。

農業や漁業に比べても、さらに間口が見えづらく感じられる林業ですが、学生たちとものづくりをしている曽和さんの視点では、必ずしもそうではないそう。木、金属、プラスチックといったプロダクトにまつわる素材の中で唯一といっていいほど、木材だけが個人でも素材から関わることができるものだといいます。「スチールでものづくりをするからって、鉄鉱石から掘るわけにはいかないので。木材であれば、たとえば学生が山村に入って、木を切るところから関わっていくこともできる」。

曽和さんからは、教育の問題点として、地域でのワークショップは無償が当たり前で、事業者はだいだい持ち出しになっているとの指摘も。たしかに、農林水産業の未来につながるような教育活動がビジネスとしても成立しなければ、一次産業に携わる人にとって教える価値が生まれません。

と、ここで時間が来ました。
「これまではつくることに注力すればよかったのが、今はつくるまでのプロセスも整え直さないといけない。手始めにどこから手を付ければいいのかなって考えこんでしまうけども…、それぞれに健全性を意識していくのが一番望ましいと思う。そのうえで、地域に根付く地域文化にならなければ」とファシリテーターを務めた服部さん。

「さらに若い世代にはものを見る目が備わっていて、農林水産業にも関心を持ってる若い人は増えていると思う。生産者の側がもっと間口を開いていけば、お互いの距離はより近づいていくはず。僕自身は兼業農家でやってるので、専門でやっている生産者から興味を持つ人たちへの情報提供をさらに進めて、間をつなぐ役割を果たしていかなければ」と鶴巻さん。

とても学びの多い機会となった今回のクロストーク。
「今日をスタートにして、今後できることを考えていきたい」、これは参加したみなさん共通の声でした。


つながりやすくなった世の中とは言いながら、プロフェッショナルたちが業種を超えて話す機会は少ないもの。
そんな機会をもっともっと!と思う一方で、その間をつないでいけるのは生活者の役割、面白みかなとも感じました。
海へ、山へ、畑へ。積極的に生産現場にも足を運ぶことは、さまざまな流れを生み出すことにもなるはず。それこそ近い距離にすべてが揃った神戸の利点ですから、享受しなければ、ね。