冬ごもりのおっさん、 貸農園へ這い出る。 by 田岡和也(画家)
2021年、啓蟄の候。
こたつに潜り、スマホでなにげに「神戸市 貸農園」と検索をかけてみたところ、
~神戸市内の貸農園のご案内~(https://www.city.kobe.lg.jp/a67688/kanko/nogyogyo/agricultural/farm/)へとたどり着き、近くの須磨区にも貸農園が多く開設されていることを知る。
高校卒業までを過ごした故郷の香川では、畑や田んぼに囲まれて育ったにもかかわらず、興味を持ったことや手伝いをしたことは皆無。
「野菜づくりしてみいひん? いい機会かも」
息子の食農教育のためにと妻には説明をしてみたけれど、結局は私がやってみたいだけ。
貸農園まで約7kmということはチャリで行けるやん! と、思い立ったが吉日、早速電話をかけてみる。
「あっ、ちょうど1区画空いていますよ」
「ほんまですか。今から見学に行ってもいいですかね?」
「あ~ええですよ」
「じゃあ、早速チャリで行きます」
新長田と板宿の商店街を抜け、ギアを軽くして坂道を登っていくと、東山と高取山の間の六甲全山縦走路にはハイカーもちらほら。木々や土の雰囲気に包まれ、軽く汗をかいてようやく貸農園に到着。
「この場所やけど、どうかな」
4×4mのちょうど良い大きさ。「春からお願いします」と、もう即決。
近くで作業をしていた、震災直後からずっと野菜づくりをしているという”先輩”から
「水捌け悪いから高畝(たかうね)にするか、それか、里芋なんかは大きく育つからいいよ」というアドバイスとデカいサニーレタスを頂く。なんだか急に実感が沸いてきてワクワクしてくる。
帰り道、新長田の古本屋に立ち寄って野菜づくりの本を購入し、男爵とメークインの種イモを購入。
農園に行くといつもその先輩が作業をしていて、農具の使い方から土の耕し方や砕き方、畝立てまでを丁寧に教えてくれるのでとっても心強いし、時には余った苗や種を頂くこともあり、感謝しかない。
また、これまでまったく知らなかった生き物達の世界にも魅了される。
土を掘り返すとミミズがたくさん現れて、それらを狙ってジョウビタキが飛んでくる。モグラにカエルにカマキリにバッタにコオロギetc…。って、ほんとにダイバーシティ。
野菜づくりを始めたことで、モノクロブラウン管から鮮やかなカラー液晶8Kに! と、使い古された喩えだとしてもそんな感じ。初めて植えた男爵とメークインから芽が出た時のあの感動を…伝えたい。
神戸市には多くの貸農園が開設されているので、みんな一度は野菜づくりをやるべきだと本気で思う。
2023年、貸農園での野菜づくりも3年目に突入し、今では妻や息子から育て てほしい野菜の注文も来るようになった。自分で育てたそら豆からとった種 も、植えるとひょっこりと芽を出して、今では株もだいぶ安定してきた。
さらに、貸し農園での様子をSNSに投稿していたら知人のデザイナーに見つ けてもらって、「うちの畑でタマネギ植えてみいひん?」とお誘いが。4人で 「CLUB玉ねぎ」を結成して、神戸市藤原台の畑でひたすらタマネギを育て ています。
今年もプリンプリンなタマネギができると思います。
田岡和也
1983年香川県生まれ。神戸市兵庫区在住。主な展覧会として『マイホーム ユアホーム』(芦屋市立美術博物館)、 『六甲ミーツ・アート芸術散歩2020』、『下町芸術祭2021』など。その他、2021年、神戸市交通局のPV「ふかく、ひろく、ひろがる」に出演。