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これからの都市型農園03 社会格差に立ち向かうガーデン

これからの都市型農園
新保奈穂美

03 社会格差に立ち向かうガーデン

日本で都市型農園というとレジャー的な要素がまず思い浮かべられるだろう。しかし都市型農園の本質は、平等な食料アクセスの確保や身体運動を通じた健康な暮らしの実現、コミュニティ・社会との繋がりの創出にある。

欧米では社会格差が目に見えることが多い。低所得層が集住し治安の悪い地区があったり、タクシーの運転手や農業の季節労働者は移民ばかりだったりする。日本でも、隠れた貧困が昨今よく取り上げられるようになった。十分で健康的な食料へのアクセスが得られておらず、また社会参画もままならない人々の存在は無視されてはならない。

アメリカ・デトロイト市に「D-TOWN Farm」という農園がある。中心市街地から車で20分程度のルージュ公園敷地内に立地している。2006年に創立されたアフリカ系アメリカ人によるNPO、DBCFSN(デトロイト・ブラックコミュニティ・フードセキュリティ・ネットワーク:Detroit Black Community Food Security Network)が食料安全保障(food security)に関する政策提案や政治活動をするなかで、2008年からD-TOWN Farmを運営している。2010年時に筆者も参加した現地調査によれば、1ドル/年の費用で10年契約により土地が借りられていた。DBCFSNに対する市からの信頼が厚いことが伺える。実際にデトロイト市の政策に食料安全保障に関する政策案を起草し、それが採択されるなど、実績もある。政策提案の傍ら、D-TOWN Farmは実践の場として重要な位置づけにあろう。

ここでは週末にボランティアが活動するほか、資金があるときにはインターンシップも実施し、量が十分でアフォーダブルな(手に入る価格の)、栄養面や文化的に適切な農作物を生産している。農業関連の職業訓練のほか、自然エネルギーや雨水、コンポストを活用したり、子供や若者向けの環境教育・食育プログラムを提供したりと活動は幅広い。

さらにデトロイト・ピープルズ・フード・コープ(Detroit People’s Food Coop)という生協も作られ、低・中所得者層向けの農作物を販売するほか、インキュベーター・キッチンやカフェ、イベントスペースを備えた複合施設「デトロイト・フード・コモンズ(Detroit Food Commons)」も近くオープンする予定である。

農作物を生産するだけでなく、誰にでも手に入りやすいよう販売し、また職業訓練も提供するなど、皆の健やかな暮らしのために、都市型農園の社会的責務は大きいのである。

※写真は2010年に北米都市農業調査でご一緒した米澤健一氏により撮影され、プロジェクトメンバーに共有されたものです。

 


新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。