これからの都市型農園04 おとなりは地域の園庭
これからの都市型農園
新保奈穂美
04 おとなりは地域の園庭
高密な市街地に住んでいると、園庭のない保育園を見かけることがある。ビルの一室にあるようなものもある。幼稚園でも大きな園庭には巡り合えるとは限らない。そこで過ごす子どもたちの豊かな成長や教育のために、まちなかに園庭を作れないか。
ドイツ・ベルリンの中心ミッテ区に接し、南北に延びるテンペルホーフ=シェーネベルク区北部の高密な繁華街、そこにほど近い小さな通りを歩くと、「フローベンガルテン(Frobengarten)」というコミュニティガーデンが見つかる。約600m2のこの農園には、近隣住民用のレイズドベッドだけでなく、幼稚園2園が借りているレイズドベッドもあり、そしてみんなで耕す地植えの畑がある。
レイズドベッドとは地面から持ち上げた花壇や菜園のこと。左下の写真に見える。
この近辺は高い失業率や移民率、低い収入、売春、麻薬取引などの問題を有している。よって、連邦・州・市町村が共同出資して様々な主体の協働により地区の改善を図る「社会都市プログラム」の対象となっていた。フローベンガルテンはこのプログラムの一環で、地域コミュニティを良くしていくために公有の空き地に生まれたのである。
初期数年間のコーディネーターはランドスケープアーキテクト事務所グルッペ・エフ(gruppe F)が務め、デザインは地域住民とのワークショップで決定された。レイズドベッドや小屋は地域住民とともに作られたのだが、参加者は子どものいる若い女性が多いことから、子どもも積極的にガーデンづくりに参加した。栽培や収穫作業でももちろんたくさん活躍している。
筆者が案内いただいた日は参加者がいなかったが、グルッペ・エフのサイト*からガーデンづくりやお祭りの様子を見ることができ、子どもも楽しんでいる雰囲気を感じ取れる。
*https://gruppef.com/en/project/gartenaktiv-schoeneberg/
スパイラルハーブガーデンや手押し一輪車ガーデンもあり、植物の多様性を創出するだけでなく見た目にも楽しい。走り回れる空き空間もあるので、子どもにとって恰好の遊び場であろう。近くでは複数の大人が畑仕事をしつつ、子どもを見守ることになるので、安心である。思いっきり身体と心を動かしながら、食べ物のことを学んでもらえる。
日本のコミュニティガーデンでも、近隣の保育園・幼稚園から園児を招いて栽培・収穫体験を提供している事例がある。まちぐるみで未来を担う次世代を育てる拠点として、都市型農園を活用していけないだろうか。
新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。