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これからの都市型農園05 草と葉専用の「ごみ箱」

これからの都市型農園
新保奈穂美

05 草と葉専用の「ごみ箱」

オーストリア・ウィーン市にある伝統的な都市型農園「クラインガルテン(シュレーバーガルテン)」を訪れると、入口や各区画、区画間の道に緑色のごみ箱を見かける。こうしたごみ箱を開けてみると草や葉、剪定枝、刈芝などがぎっしりと詰まっている。

このビオトンネ(Biotonne)と呼ばれるごみ箱は、ウィーンでは郊外部の庭付き住居やクラインガルテンなどに1991年から配置されている。住居や公園緑地から発生する草や葉、調理されていない植物性の生ごみ(コーヒーかす・茶葉は可)などを週1回(冬季は隔週)回収して、堆肥化などに用いる全市的なシステムの一環で、である。つまり、ビオトンネは「ごみ箱」ではなく「資源箱」なのだ。さらに落ち葉がたくさん出る秋には、葉を詰めるための容量100Lの袋であるラウプザック(Laubsack)も1枚1ユーロで入手可能である。

ビオトンネの資源で製造される年間約45,000トン以上の堆肥は、土壌改良剤および肥料として有機農業に使われている。また、2009年からは各区のごみ収集所で18Lの堆肥が4ユーロ(2021年12月20日現在のレートで約510円)、40Lの堆肥が6ユーロ(約765円)で販売されている。場所・量によっては無料で配布されてもいる。ウィーン市によると、慣行的な方法でミネラル堆肥を作るよりも、堆肥1トンあたり157kgの二酸化炭素排出を減らせるそうだ。堆肥プラントはドナウ川沿いのローバウ地区にあり、周囲はその豊かな自然から国立公園指定されている。

ごみ収集所にあった堆肥販売の案内と見本(価格は2010年時点のものであり、現在は値上がりしている)。花の種も一緒に無料配布されていた

なお中心市街地から出る生ごみについては、約22,000トン/年が別途回収され、ドナウ運河沿いのシメリンク地区にあるプラントでバイオガス発電に使われている。

日本でもかつて自治体が有機性資源を回収し堆肥として活用するシステムの導入の動きがみられた。1997年に始まり今も続いている山形県長井市のレインボープランは代表的な事例として挙げられる。しかし予算やコストの関係か、なかなか広がっていないようにみえる。行政に頼るだけではなく、東京都日野市のせせらぎ農園や福岡県福岡市のアイランドシティコミュニティガーデンのように、地域のコミュニティガーデンを単位として住民が自律的に取り組むのも、この地球に生きる一員として責任を果たすひとつの選択肢であろう。

資源枯渇のリスクに直面し、さらにコロナ禍が拍車をかけて様々な資源の確保が難しくなっていくなか、身近な資源である草や葉、生ごみに焦点を当てた地域内資源循環に都市型農園を拠点として取り組んでいけないだろうか。


新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。