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これからの都市型農園07 空き地の農園の可能性

これからの都市型農園
新保奈穂美

07 空き地の農園の可能性

連載最後の2回は、日本のことに焦点を当ててみたい。

日本は世界でトップの高齢化率(65歳以上人口の割合)を有している。年々上昇を続け、2021年には29.1%*と、3割を超えるまで秒読み状態に入った。一方、出生率は5年連続低下を続け、2020年で1.34**である。少子高齢化と人口減少に歯止めがかからない。コロナ禍もこのトレンドに拍車をかけるだろう。
*総務省統計局、2021年9月15日時点推計データより
**厚生労働省、令和3年度「出生に関する統計」の概況より

地球に人間が増えすぎてしまったという考えもできるから、減ること自体は悪いわけではない。問題は、急激な人口減少や、生産人口と高齢者人口のバランス変化による、当面のインフラや社会の維持が困難になることである。特に深刻なのは、農村部はもちろんだが、都市部でも高度経済成長期に一斉開発して一斉入居したような、ニュータウンなどの郊外部の住宅地だ。

人が減るのだから、これまで使われていた土地や建物は上の写真のように、使われなくなってくる。しかも空き地や空き屋の発生の仕方はランダムである。狙ったところに固まって空き地・空き家が発生するということはない。一方で、近隣には暮らし続ける人たちもいる。虫食い状態になったまちの価値を保ち、インフラ・社会維持できるだけの財政も保たなければいけない。

まちがいずれ盛り返すのか、あるいは、まちを畳んでいくことになるのかはわからない。どちらになるとしても、過渡期にそこにいる人たちの暮らしを支え、活躍するのが空き地の農園である。なお、このアイデアはほとんど恩師からの受け売りではあるのだが、広めたいという思いで書いている。

神戸市灘区の灘中央広場に2019年春にできた「いちばたけ」に注目したい。空き店舗が増え、老朽化や密集具合から防災的にも問題がある市場に、魅力とポテンシャルを感じた人々が、空き区画をコンテナガーデンタイプの農園にした。2021年には隣の店舗も取り壊され、農園面積が2倍近くになったという。農園とはいっても、テーブルやイスなどもあり、コミュニティスペースもしっかりある。イベントなどをきっかけに訪れた人たちのコミュニティの輪が広がっているようだ。

もしかしたら空き地の農園がきっかけで地域の魅力が向上し、愛着を持つ人が増え、訪問者や住民が増えるようになれば地域の活気が戻り、再開発も進むかもしれない。その後、農園は地域の拠点として残り続けるもよし、建物が建つもよしであろう。もちろん無くなるのは惜しまれるが、暫定的な土地活用を前提としている以上、地域再生の役目を果たしたと思って見送ることも時には必要になる。農園であれば基礎のある建築物は基本ないので、原状復帰もしやすい。

将来がどうなるかは、世の中のさまざまな状況に左右されるが、大事なのは、いまそこにいる人たち、周りにいる人たちのゆたかな暮らしの場をつくろうとすることである。

農園は人々に元気やアイデア、ネットワークをもたらす。それがどういった形であれ、未来の礎になるはずだ。空き地活用型の都市型農園にはそうした、まちの過渡期を支える役目があるのである。そして、こうした農園の取り組みは、高齢化社会のトップ国である日本が、空き地という地域資源の活用モデルとして発信できるものとなるだろう。


新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。