これからの都市型農園08 農あるまちへ!
これからの都市型農園
新保奈穂美
08 農あるまちへ!
農あるまちはなぜ必要なのだろうか。
まちなかの農園の役割について、食料供給だけではなく、資源循環や教育、多文化共生、土地活用などいろいろとこれまで紹介してきた。それぞれの役割に絞って見れば、必ずしも農が最良の解決方法ではないだろう。機能特化した別の施設を作った方がより効果を出すことも多いはずだ。しかし、農は複数の機能を同時に持つことができ、必要に応じて必要な機能を発揮してくれるのである。
冒頭写真はニュージーランド・クライストチャーチ市の震災復興過程で生まれた、再開発が起きるまでの暫定的な農園(トランジショナル・アーバン・ファームと呼ばれていた)だが、農はある期間だけ役割を果たすということもしやすいという、時間的な柔軟性も持つ。建物を必ずしも要しないので、その後の空間を作り替えやすいということである。
このように、機能面でも時間面でも柔軟性の高い、リザーブ的な空間であることが都市型農園の特性である。
そうした農園をツールとして、よりよいまちづくりをしていこうという動きが各地である。東京都日野市の「農のある暮らしづくり計画書」*は、さまざまな形態の「農」を用いて、あらゆる市民が楽しく豊かに暮らせるまちをつくることを提案したものである。提案したのは住民を中心にした「農のある暮らしづくり協議会」である。このように、農を使ってどのようなビジョンを描くのか、暮らす人々自身が考えていくことが重要であろう。
農のある暮らしづくりのイメージ図(日野市 農のある暮らしづくり計画書より)
*農のある暮らしづくり計画書 https://www.city.hino.lg.jp/shisei/machidukuri/1016599/1017179.html
ここまで大きなビジョンを掲げたり、何か新しい活動を立ち上げたりするほど自信やエネルギー、技量がないという場合は、誰かがやっている農園に加わるのでもよいし、自分の家や庭のなかで栽培やコンポストづくりなどできることをするのでもよいだろう。まずは自分の足元で、農をツールとして、身近な環境に少しでも変化を起こすことが大事である。
また本格的な活動をするのであれば、行き詰まらないよう仲間を作って情報交換や励まし合いをすると頑張れる。自治体の協力も多くの場合で必要となるが、まちなかの農園づくりには都市計画、農政、公園緑政、福祉などといろいろな部門を横断する必要が出てくる。そうした行政の各担当とうまく仲良くなって進めていきたいところである。反対に行政側にも、現代の複雑な社会問題に立ち向かうため、脱縦割りが求められている時代であるから、ぜひ分野の垣根を超えて協力いただきたい。
全8回の連載ではとても紹介しきれなかったくらい、多様な農の形がある。上写真のベルリン市の事例のように、空き地で地植えはできなくともコンテナや袋に土を詰めて野菜を育てたっていい。下写真のウィーン市の事例のように、ゲリラガーデニングが荒れた空間の再生に寄与していることもある(公認はされていないが、通報もされてはいない)。問題を起こすのはよくないが、従来のルールだからとやり方を縛り付けるのではなく、「ここがこうなったらよいな」という想いを大事に、多くの人が柔軟に行動を起こし、よりよい「農あるまち」ができていけば幸いである。
まずはKobe Urban Farmingの今後を楽しみにしている。
新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。