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瀬戸内の食文化をめぐるレポート vol.3 香川 前編(つくる)

かつては、西日本の交易の中心だった瀬戸内。そんな瀬戸内エリアには、新たな食にまつわる活動や動きが生まれつつある。今回の取材では、瀬戸内の各県を巡り、「つくる人」「ひろげる人」という視点から、各地のプレイヤーの取組みを発信し、食文化を発展させていくヒントやきっかけを見つけ、ネットワークを構築していく。

今回は香川県のプレイヤーに会いにいく。徳島県美馬市で建築設計の仕事を営む高橋さん、そして兵庫県神戸市でカメラマンをしている岩本さんと車を走らせ、徳島県を流れる吉野川を眺めながら北上して、山に入っていく。

 

先祖代々の土地で、アスパラ栽培に挑む

徳島県から山を越え、香川県丸亀エリアに入ると、そこには平野が広がる。あちらこちらにうどん屋の看板。そして目を引くのが、なだらかな裾野が美しい、讃岐富士と呼ばれる飯野山。今回はその山と同じ名前の会社を営む、農家-Sanukifujiの横井健一さんにお話を伺う。

「うちは代々農家。米の兼業農家ですね。何とか代々の土地を守ってくれていたっていうのが心のどこかにありました。自分自身は四国中を飛び回って働いている中、『さぬきのめざめ』という香川県でしかつくれないアスパラのブランドが生まれてきました。面白いなと思い、構想8年計画5年ぐらいでスタートしていって、今年で3年目ですね。」

理路整然とした話口調の中に、コミュニティ内に必ずいるいいおっちゃん感を醸し出す横井さん。事務所兼作業場は、手袋1つとっても美しく管理され、整備されている。農家-Sanukifujiでつくられているアスパラは、どんな特徴があるのだろうか。

「さぬきのめざめという品種は、長くて太くて、でも柔らかく甘い。さらにうちは3色育てているので、色や長さ、太さに変化をつけてアスパラの提供をしています。また、1月から10月というかなり長い期間、アスパラが採れるのもこの品種の特徴です。」

さあきた。取材者の特権だ。朝採れのアスパラをいただく。生でそのまま食べてくださいと横井さん。半分に割り、かぶりつく。―――こんなに瑞々しくて甘いアスパラは食べたことがない。アスパラは、いつもどう料理していいか迷う野菜だったが、美味しいアスパラは、こうやってサラダで食べるだけでご馳走になることを知る。また、穂先よりも根元の方が甘いなど、こうやって生産者に特徴を聞きながら食べ方を知る時間は本当に楽しい。

 

農家は、メーカーであり商社でなければいけない

アスパラ自体の特徴や美味しさを聞かせていただいた後、横井さんはまた別の視点も大切にしていることを教えてくれる。

「収穫されたものは、きれいなものばかりではないですよね。色んなサイズが出てくるのですが、それはお客様のニーズに合わせて販売していきます。うちの場合で、長さや太さの違いで独自に規格基準をつくっています。あとは彩り3色をかけると108通り。元営業マンとして、商品はあればあるほどいい。」

私自身も兼業農家だが、商品数というと、トマト、ナス…と栽培作物の種類を増やす方向に目がいきがちである。規格を作ることが商品数を増やすことなんだという考え方は、恥ずかしながら初めて触れたような気がした。横井さんは貯蔵技術も研究を重ねられ、必要な時に適切なタイミングで出荷できるように態勢を整えている。また出荷の際に切り落とす根元部分でさえも、化粧品や加工食品として活用できないか模索している。経営努力によって、つくられた作物を余すことなく売り上げに繋げていくことが、結果的にフードロス等の改善にも寄与していくのかもしれない。

「農家が商社に変わっていくっていう、顧客管理ができる状態の農家じゃなかったら駄目なんです。仕事でやってるわけですよ。お金のために仕事してるわけじゃないですか。儲からない仕事してたって、家族は路頭に迷うだけ。私も実は両肩に子どもが4人乗ってるもんで。あとやっぱりポルシェ乗りたいじゃないですか、フェラーリ乗りたいじゃないですか。」

昔から、50歳でフェラーリに乗ると宣言しているそう。鋭い経営感覚と、いい車乗りたいやん!という少年のような眼差しのギャップ。農作物の品質だけでなく、こうした横井さんの人柄にもファンがついてくるのだろう。

 

いい状態で、人生バトンタッチ

今後の展開をお聞きしてみた。

「農家-Sanukifujiの理念として、美味しい、楽しい、うれしいを育てる企業とあります。アスパラでなくてもいいんです。5年すると、周りが全部耕作放棄地になってくる。そうした時に、例えば公園にしたり、マウンテンバイクで遊べたり。最近田んぼで子どもが遊んでいる姿を見ないでしょう?遊べる場所に変えてあげて、その土地の持ち主さんには、管理できている状態を見せることで安心してもらいたい。そんなこともしたいですね。」

代々土地を引き継いできた地元の人間だから分かること。土地が重みにならないように、農業も含めたあらゆる方法で、せっかく残してくれた先代の土地を活用し、次を生きる世代が恩恵を被る。それこそが財産ですよねと語る横井さん。最後の質問、横井さんは『食文化』という言葉をどう捉えますか?

「まさに、私の場合は美味しい、楽しい、うれしいを共有できる場所。それが食であり食文化だと思うんですよね。人間の喜びの原点はやっぱり美味しい。食がスタートで、やっぱり美味しいものがあれば、そこに人が集まってきて、人の輪が生まれて楽しさも生まれ、うれしさに溢れます。そういう瞬間を繋ぐものとして、食は必須だと捉えています。」
自社の経営のことから、広く地域のことまで。横井さんのような人がいるからこそ、豊かな食がその場所から生まれ、続いていく。

 

●おまけコラム「香川県の郷土料理」

今回の取材は、「各県の郷土料理を食べる」というテーマをいただいている。前回徳島県では、己の欲望に勝てず徳島ラーメンを食し、郷土料理とさせていただいた。今回の香川県といえば、圧倒的知名度を誇る白くてすする食べ物がある。さすがにクリエイターを中心に地域を繋いでいくといっているこの企画で、その白くてすする食べ物をチョイスしてしまってはいけない。もっと調べぬいたものをみなさんに紹介しないといけない。そうして選ばれたものがこちら。

『讃岐うどん』という郷土料理だ。みなさんご存じだろうか?

……だって食べたいじゃないですか。うどんを食べずに香川を去るなどということがあってよいのだろうか。休日の朝に目が覚めて、徒歩で数百円のうどんをすすりにいく。なんて素晴らしい生活様式なのでしょう。神戸の我が家の徒歩5分以内にもほしい。

お腹が減っていたので、釜玉の大と、ミニかつ丼をお願いした。かつ丼はもう郷土料理関係ない。そして待つこと10分弱、想像を越える量のうどんとかつ丼が目の前に現れた。かつ丼は、ミニというか大都市ではもはや普通のサイズだ。このサービス精神が、地方に訪れる人々の心を温めてくれる。車の移動、しばしお待ちを…。

 

後編に続く。

 

 

記事では書ききれなかったことなど、取材時の様子を動画で公開しています。

より詳しくご覧になりたい方はこちらから。

文:鶴巻耕介

写真:岩本順平