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「FARM to FORK 2022」レポート
景色をつなぐ体験――お絵かきとサイクリング

秋晴れの週末となった10月29日、30日。今年で8回目となる「FARM to FORK」が昨年に続いて須磨海岸にて開催されました。ゲストを招いたトークやワークショップ、音楽ライブに、毎週恒例となっているファーマーズマーケットも同時開催。
しまなみ海道から本イベントに参加されたcycle編集部の杉谷紗香さんに当日の様子を執筆いただきました。杉谷さんはトークイベントに出演するとともに、ワークショップも実施されました。

サコッシュお絵描きと神戸の海

「FARM to FORK」のファーマーズマーケットで、サコッシュお絵描きワークショップをさせていただくようになって2年目。今年も、夢中でお絵描きを楽しむ子どもたちと、「何、描いたの?」なんて会話をしながら、海辺で秋の一日を楽しんだ。
いまやcycle編集部の定番企画となった「サコッシュお絵描きワークショップ」*1 は、2021年のFARM to FORKで初めて企画、実施した。ファーマーズマーケットを訪れる方に自転車乗りが増えたらいいな、という気持ちで、トートバッグではなく、サイクリングにも役立つ「サコッシュ」をお絵描きの“カンヴァス”としてチョイスしたのだけど、お絵描きに夢中になるのは大人よりも断然、ちびっこたち! お昼時、親子連れでにぎわう時間帯になると順番待ちができるほど、「描いてみたい」子どもたちがブースに集まってくれた。

ワークショップのお絵描きに使うのは、布用クレヨン。アイロンをあてるだけで描いた絵を布に定着できる便利なクレヨンで、画用紙に描くのと同じ感触で、布面に絵を描くことができる。

クレヨンで子どもたちがサコッシュに描くものを観察していると、その子が「いま描きたいもの」が画面いっぱいに現れてくる。FARM to FORKの会場で目にしたお野菜たちに、海辺を進むカヌー、砂浜で一緒に遊んだお友達の笑顔。環境保全のブース *2 で学んだイルカやクジラを描く子もいれば、お隣のブース、SPARK Scone & Bicycleさん *3 の自転車を描く子、隣接する須磨水族館で見てきたばかりのお魚を描く子もいて、子どもたちの目に映るものって、こんなにも色あざやかで、楽しさにあふれているんだなぁ、とつい、目を細めて笑顔になってしまう。

個人的に印象的だったのは、カラフルな虹をサコッシュいっぱいに描いてくれた男の子。須磨の海と山から集まったおいしいもの、とびきりのものが、この虹いっぱいのサコッシュに詰まっていくのだとしたら、なんてステキな景色なんだろう。その子が描き終えるまで横で見守りながら、たまに海の方を振り返って、眺めてみる。そういう何気ない瞬間に、いま・ここにある海と空が、この須磨という場所で全部つながってるんだなぁと、とても大きな風景が見えてくる。

(写真左)今年の「サコッシュお絵描きワークショップ」は30名が参加してくださり、最後は完売御礼! たくさんのご参加、ありがとうございました。(写真右)大きな虹をサコッシュいっぱいに描いてくれた男の子。おいしいもの、いっぱい買いものしてね!

ニコニコしながら男の子が描いてくれた虹と、海と空の組み合わせを、なんだか尊く感じたのは、この景色が昔から当たり前にあるようで、実は、「当たり前じゃない」と知ってしまっているからだろう。この景色を残し、未来へ伝えていくために、いまを生きる私はどうしたらいいんだろう? 何をすべきなんだろう? 向き合わないといけない課題について、考えを巡らせ、日々のアクションにつなげる場として、FARM to FORKは、年に一度、私にとって大事なイベントになっている。未来に向けてやるべきことは山ほどあるけれど、FARM to FORKの会場にいると、何ごとも楽しんでいこう、というポジティブな気持ちになれるのが不思議だ。

自転車で神戸の「漁」と「農」を知る

今年の「FARM to FORK」にはワークショップのほかにも楽しみがあった。それが、「神戸の農村&漁村サイクリングレポート」と題したトークイベント。トークでは、10月上旬にEAT LOCAL KOBEの企画 で初めて実施された「漁村ツアー」*4 と「農村ツアー」*5 について、一緒に走ったEAT LOCAL KOBE の小泉寛明さんと、西区で「Moto Vegetable Farm」*6 を営む農家であり、サイクリストの安福元章さんと私の3人でレポートするというもので、1時間たっぷりと神戸サイクリングの魅力を語り合うことが できた。
このEAT LOCAL KOBEの自転車ツアーは、ただ神戸を自転車で走るだけじゃなく、農家さんや漁師さんと“一緒に走る”のがポイント。「サイクリング+社会見学」といった内容で、漁村編では、三宮のメリケンパークから垂水まで漁港しばりで寄り道しつつ、海と漁のことを現役漁師さんにガイドしてもらった(漁師の尻池宏典さん *7 が乗っていた電動自転車もカッコよかった!)。農村編では、北区の大沢から西区や三木市を経由して明石まで、電動スポーツバイクでGO。ナビゲーターを務めた FARM CIRCUS *8 の吉田彰さんと共に、神戸ワイン用のブドウや神戸牛、ホップ、落花生など、各地の農家さんを訪ねながら神戸の農業を支える水の存在を実感した。

10月10日に開催された「EAT LOCAL KOBE 自転車ツアー 農村編」。北区の淡河(おうご)で里山のワインディン グロードを気持ちよく走る。その後、訪れた西区で走った河口に向かうゆるやかな道との対比もおもしろい。

何よりおもしろかったのは、ペダルをこぎながら、「景色」と「知識」がつながること。地面の起伏を脚で感じつつ、風や光を全身で受けるうちに、ツアーを体験した人の頭の中で全部がつながって、これまで知らなかった「神戸の風景」がどんどん見えてきた。クルマや電車で通過しながら見たのでは、ちぎれて飛んで行ってしまいそうな、ささやかな景色の断片も、自転車なら、時にスローダウンしたり立ち止まったりしながら、ていねいに拾っていける。その拾った断片を合わせると、ダイナミックな景色ができあがる。

また、サイクリングしながら耳にするエピソードは、自分たちの視点の解像度をぐぐっと上げてくれたのも印象的だった。ハーバーランドの波止場で立ち止まって「ここから見える海は、実はとても豊か。 多くの魚たちが生息していて、神戸の漁師は200人以上いる」と教えてくれた漁師の尻池さん。「ミネラルと栄養を多く含む六甲山の水が、川と海に流れ込み、神戸の農と漁を豊かにしている」と教えてくれたEAT LOCAL KOBEの小泉さん。「東播用水や御坂サイフォン橋といった水にまつわるインフラ が、神戸の農業を支えている」と教えてくれた安福さん。どのお話も、サイクリング中に目にする景色 をガラッと変えてくれたし、ペダルをこぐ足と同じように私の思考も、ぐるぐると止まらなくなったーー。

10月8日に開催された「EAT LOCAL KOBE 自転車ツアー 海編」。ガイド役の漁師・尻池さんの本拠地、長田区の駒ヶ林漁港では、しらす漁の漁船を間近で見学した。

トークイベントで、そんなエピソードを会場のみなさんと共有して、今年のFARM to FORKが幕を閉じた。年に一度、関わるこのイベントを通して、日々の営みが、自分ごととして頭の中でつながるのが毎回楽しい。

私が住む街は、サイクリングの聖地・しまなみ海道にある。関西に住んでいたときよりも海が身近になったものの、まだまだ漁師さんは遠い存在のままだ。今回は神戸の農村&漁村ツアーについて紹介したけれど、きっとこの取り組みは、違うエリアでも役立つだろう。しまなみ海道でも、農と漁の営みを知るサイクリングを実現できたら、おもしろいはず。神戸から、瀬戸内海へ。自転車で、農村と漁村へ出かければ、ただのんびり走って景色を眺めるだけじゃない、一歩踏み込んだ「未知の体験」が待っていると確信したのだった。

FARM to FORK 2022 ファーマーズマーケットでは、自転車ツアーで一緒に走った「Moto Vegetable Farm」さんの野菜を買ってみた。あざやかなピーマンに農村で見た景色が重なる。


杉谷紗香(cycle編集部)

文化系自転車乗りのためのフリーペーパー&Webマガジン「cycle」編集発行人。大阪府出身。広島県尾道市在住。英国製折りたたみ自転車・ブロンプトンに乗って15年強の街乗り派。2台目にロングテールバイクを導入し、2人の子どもとともに、広島&大阪の二拠点生活を満喫中。著書に『神戸自転車ホリデー』(光村推古書院、2013年)
https://cycleweb.jp/

*1 cycle編集部「サコッシュお絵かきワークショップ」https://cycleweb.jp/magazine/detail/68
*2 アイサーチ・ジャパン https://icerc.org/
*3 SPARK Scone & Bicycle http://www.spark-kobe.jp/
*4 EAT LOCAL KOBE 自転車ツアー 海編(10月8日開催)  https://eatlocalkobe.org/221008cycling/
*5 EAT LOCAL KOBE 自転車ツアー 農村編(10月10日開催)  https://eatlocalkobe.org/221010cycling/
*6 Moto Vegetable Farm https://kobeurbanfarming.jp/farmers/2311
*7 尻池宏典さん。神戸漁師チーム・ペアトローリングスの代表。https://eatlocalkobe.org/神戸ペアトローリングス/

 

文・写真:杉谷紗香(cycle編集部)