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人生は野菜スープと音楽と

神崎奈津子さんが描く、見事な野菜のドローイング画。これを見ながらぜひ聴いていただきたい音楽を神戸在住の文筆家で、ラジオDJの仕事もされている安田謙一さんに選んでいただきました。さつまいもに合う1曲といえば、焼き芋を歌った数々の曲のうちからこちら、ブリーフ&トランクス「石焼イモ」です。


さつまいもは英語でsweet potato。スイートポテトといわれてすぐに思い出すのは、70年代のアイドル、「スター誕生!」出身の目黒ひとみが歌った「スイートポテト42キロ」。♪スイートポーテトー、よんじゅうにきろ~、上から数えて80、60、92、少しぽっちゃりかげんかな、という阿久悠の歌詞は、大人になった今から見ると、なかなかツッコミどころが多い。さつまいもじゃなくて、さつまいもを使った洋菓子のことを歌っている。
さつまいもと言えば、焼き芋。焼き芋を歌った歌はごろごろ。キューバの兄弟デュオ、ロス・コンパドレス、1976年の「やきいもの歌」。日本のフォーク・デュオ、ブリーフ&トランクス「石焼イモ」(2000年)。カリフォルニア在住のシンガー&ソングライター、シモーン・ホワイト「やきいも」(2010年)。では、クイズ。この3曲の共通点はなんでしょう。……答えは、すべて焼き芋の宣伝音声をメロディ込みで歌に取り入れている、ということ。
ロス・コンバレスは赤坂のレストランに長期出演していて、その間に物売りの声に遭遇したのだろう。歌詞は全編、カタコトの日本語で、キューバの「ピーナッツ売り」を思い出す、とも歌われている。名曲「南京豆売り」で聞かれるアレか、と歌になっているのですぐにわかる。シモーン・ホワイトは日本でのツアー中にこれを体験した。あと、歌詞で「ヤキイモ」が連呼されるスリム・ゲイラード「スキヤキ・チャチャ」(1959年)も忘れちゃならない。これは実体験じゃなくて、おそらく朝鮮戦争時に日本に寄って…という人からの「また聞き」じゃないか、と睨んでいる。
という流れの中で1曲選ぶとすれば、ブリーフ&トランクス。ロス・コンパドレス、シモーン・ホワイト、スリム・ゲイラードが異国情緒として愛でた、あの物売りの声を、彼らは突然日常に現れる異物として歌っている。特にロマンティックな状況においては!
誰かにとっての日常は、誰かにとってのエキゾチックなのだ。


安田謙一:1962年生まれ。神戸在住。ロック漫筆家。著作に『神戸書いてどうなるのか』(ぴあ)など。ここ数年間に書いたライブ評をまとめた『ライブ漫筆』(誠光社)をコロナ禍に刊行した。

※神戸の野菜図鑑|ほしこがね の記事はこちら