これからの都市型農園02 生きものが「食べる」農園
これからの都市型農園
新保奈穂美
02 生きものが「食べる」農園
エディブルガーデン(edible garden:食べられる庭)という言葉がある。
観賞用だけでなく、食べられるものを植えた庭である。広義には畑もエディブルガーデンではあるが、美観を考慮したものがより当てはまるだろう。
(なお、本連載では庭、畑、ガーデンなど、野菜や果物、花などを育てる空間をひっくるめて農園と呼んでいる。それぞれの微妙な使い分けはまた別の機会に書きたい)
庭からさらに私たちの暮らすまちに「食べられる」ものを広げると、それがエディブルランドスケープ(edible landscape:食べられる景観)となっていく。
この「食べられる」、というのは、必ずしも人間にとってだけの概念にしなくてもよいだろう。花の蜜を集めるミツバチやチョウなどの昆虫も、ある意味「食べている」。植物につくアブラムシを食べるテントウムシももちろん「食べている」。人間中心に考えるだけでなく、その他のいろんな生きものも共生するという視点から農園を作れないか。
生物多様性に配慮したコミュニティガーデン(まちの人たちが野菜や花などを育て、交流活動を行っている空き地などの空間)が欧米ではよく見られ、さまざまな廃材等でつくられた虫のホテルと呼ばれる巣箱が設えられていることが多い。冒頭の写真は、スペインのマドリード郊外にあったコミュニティガーデンにあった「ハチのホテル(Hotel de abejas)」である。ガーデンに来て食料を得たミツバチが居着けるよう、仕掛けを作っているのである。
ハチのような花粉を媒介する者(ポリネーター)がいなければ、そもそも植物の受粉は多くの場合成り立たない。そうしたポリネーターを助け、生物多様性を豊かにし、少しでも健全な環境を形成・修復できるよう農園作りを心掛けるとよいだろう。農園に留まらず、まち全体に広げてもいいかもしれない。そうした積み重ねが、変化に耐えうる複雑な生態系を作り、進展する気候変動に適応できる地球の未来につながるかもしれない。
新保奈穂美兵庫県立大学大学院 講師、淡路景観園芸学校 景観園芸専門員
東京大学で学部、修士、博士課程まで修了。2016年より2021年3月まで筑波大学生命環境系助教。ウィーン工科大学への留学、ニュージーランドのリンカーン大学での研究滞在など、海外でも数多くの都市型農園をリサーチしている。